サカナハメグル

漁港の活気、市場の熱気。日本各地の漁港や市場を巡り、その土地の文化や漁食を紹介します。海と人々の暮らしがある風景、地域ならではの魚介類や料理。魚を通して、日本の魅力を再発見しましょう。

ダイナミックな船団漁、
「かしき料理」にも注目

三重県南伊勢町・奈屋浦漁港

三重県漁港巡りの第三弾は、入り組んだリアス海岸を縫うように車を走らせ、南伊勢町の奈屋浦漁港へと向かいました。

取材日:2025年11月14日

▲山頂から眺める奈屋浦漁港(南伊勢町)

ここは、伊勢湾のような内海とは異なり、黒潮の影響を強く受ける外洋・熊野灘に面した港です。潮は速く、水深は岸近くで一気に落ち込みます。穏やかな日ばかりではなく、時には荒々しい表情を見せる海。しかしその一方で、黒潮がもたらす豊富な栄養と回遊魚の通り道という条件が重なり、熊野灘は魚種の多い海としても知られてきました。

岸壁に係留されている船の中には、単独で漁に出る小型船だけでなく、巻き網漁船の姿もあります。巻き網漁は、複数の船が役割を分担して行う「船団漁」。網を積んだ主力の「網船」、魚群を探す「探索船」、漁獲物を港へ運ぶ「積み船(運搬船)」が連携し、ひとつの漁を完成させます。

▲大型で迫力ある船団漁船が並ぶ

まず探索船が魚探やソナーで海中を探り始めます。狙うのはサバやイワシ、アジといった回遊魚。魚群の反応が捉えられると無線で情報が共有され、網船が大きな円を描くように進路をとり、巻き網が海へと投入されます。魚群を包み込んだ網の底を絞ると、そのまま運搬船へ。鮮度を保つため素早く奈屋浦漁港へと戻り、港では即、水揚げ作業が始まります。

▲運搬船から直接、魚を選別機へ投入
▲この日はイワシとサバが大漁

イワシやサバの群れを丸ごと狙い、効率的に「量」を獲るダイナミックな巻き網漁。獲れた魚は養殖魚の餌や加工品の原料として出荷されますが、たとえば胃の中に残留物が多い魚は鮮度落ちが早く、加工には不向きになるなど、同じ魚種でも獲った場所や時間、サイズによって状態が異なり、その分、用途も違ってくるそうです。だからこそ仲買人たちは、毎朝その場で魚の状態を見極め、競り落とす内容を瞬時に判断していきます。

▲水揚げ後すぐ、競りが始まる

奈屋浦漁港を後にすると、「かしき料理の店」と書かれた食堂の看板が目に入りました。外洋に面し、遠洋漁業で栄えたこの辺りでは、かつてカツオ船で先輩船員の食事を担当する一年生船員のことを「かしき」と呼んだなどと聞き、がぜん興味がわきました。

また、秋から冬にかけては、伊勢エビ漁で網にかかる魚を「海老網魚(えびあみざかな)」と呼んで、地元の飲食店や料理宿で使われているそう。狙いはあくまで伊勢エビですが、網を引き上げると、周囲を回遊していたアジやサバ、イサキ、小ダイ、時には見慣れない魚まで一緒に揚がってきます。こうした海老網魚を余すことなく使うのも、南伊勢町ならではの食文化なのです。

まず注文したのは「かしき定食」です。膳が運ばれてきた瞬間、「なるほど、これがかしき料理か」とひと目で納得しました。皿の上に並ぶ個性豊かな素材はどれも、今しがた海から上がってきたかのような存在感。飾り気はありませんが、海で働く者だけが食べてきた日々のご馳走といった風情です。

マグロの刺身に白身魚のホイル焼き、殻のまま焼かれたウニ、ヒオウギ貝など。新鮮で素材の味が濃いからこそ、調理はきわめてシンプル。豪快な漁師のまかないのようでいて、滋味深い澄んだ味わいに自然とご飯が進みます。

さらに、この日のおすすめ「アジ丼」も実食。つやつやとしたアジの切り身が、丼の縁に沿ってぐるりと並び、その中心にはとろろが添えられていました。しっとりとしたアジの身に舌が触れると、ほのかな脂がすっと溶け、新鮮そのもの。とろろと一緒に口に運ぶと、その一体感が絶妙。ご飯がアジの旨味を引き立てながら、するすると喉の奥に消えて行ってしまいます。

少し移動するだけで、同じ県内でもいろいろな表情の海に出会えた三重県の漁港巡り旅。魚種の多さとクオリティの高さに脱帽するばかりでした。三重グルメの奥深さは、まだまだ底が知れません。


著者プロフィール

塩坂 佳子(しおさか よしこ)フリーライター

大阪府出身。東京でフリーのライター兼編集者として長年、雑誌や書籍制作に携わる。東日本大震災後はボランティア活動で東北に通い、2015年宮城県石巻市に移住。執筆活動を続けながら、魚の街から日本の魚食文化を推進したいと『石巻さかな女子部』を立ち上げた。以後は土産物の企画・開発やコミュニティづくりなど、地方創生活動にも従事している。


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