漁港の活気、市場の熱気。日本各地の漁港や市場を巡り、その土地の文化や漁食を紹介します。海と人々の暮らしがある風景、地域ならではの魚介類や料理。魚を通して、日本の魅力を再発見しましょう。
最盛期のイセエビ漁と
海女文化に触れる
三重県志摩市・和具漁港

三重県志摩市の南部、英虞湾(あごわん)と太平洋にはさまれた小さな港町・志摩町和具。この町にある和具漁港は、古くから漁業と海女文化が息づく「志摩らしい海の玄関口」として知られ、アジ、サバ、イワシ、カツオ、ブリ類、そしてイセエビやサザエ、アワビまで、豊かな海の恵みが水揚げされてきました。
取材日:2025年11月13日

外海に面しながらも、複雑に入り組む湾や岬が潮の流れをつくるこの一帯。10月から翌年4月にかけてはイセエビ漁が最盛期を迎えます。

お歳暮やお祝い事にも重宝されるイセエビは、ツノや脚が一本欠けただけでも価値が下がる繊細な商材です。刺し網漁で、帯状の網を魚の通り道に仕掛け、網に刺さったイセエビや魚を丁寧に回収します。この「丁寧さ」が重要で、潮の癖や海底の形状を読む地元漁師の経験が、質の高さにつながっていきます。
夜明け前から始めた漁を終え、船が港に着くと、待機していた人々がさっそく網からイセエビを外していきます。家族やご近所、親戚に声をかけて手伝ってもらうのがこの辺りの風習。漁港に集まった人々が一斉にイセエビを外していく光景は、今も続く季節の風物詩です。



近年、海水温の上昇やガンガゼウニの増加などの影響で、餌になる海藻が減少し、イセエビの生息環境が厳しくなりつつあります。和具の漁師たちは、この状況を「地域全体の危機」と捉え、乱獲を防ぐために全船が同じ時間帯に漁をする、小型のイセエビは積極的に放流するなど、地域ぐるみの資源管理に取り組んできました。県の基準では70g以上は出荷可能なところ、和具ではさらに厳しく110g以下はすべて放流。次世代につなぐための努力を惜しまず、宝物のように扱われていたのが印象的でした。

漁港を後にすると、志摩の海を支えるもうひとつの主役、海女文化に触れるため海女小屋に向かいました。海女小屋とは、海女さんたちが漁を終えたあと、冷えた体を囲炉裏の火で温めたり、おやつをつまんでひと息つく憩いの場。仲間同士が語り合うコミュニティの場でもあります。近年では、鳥羽市や志摩市の海女小屋で海女文化を体感しながら獲れたての魚介を味わえる体験型サービスが人気を集めています。その影響もあり、国内外からの訪問者も増えているそうです。
太平洋を見下ろす高台に建つ小屋は、素朴な木の壁や囲炉裏の温もりがどこか懐かしい雰囲気。壁には昔の漁具や海女さんたちの写真が展示され、歴史を垣間見ることができます。一方で、後継者不足の課題は深刻。貴重な伝統が次世代へとつながるかどうか、危機感が広がっているとも教えてもらいました。

今日はここで、海の幸をいただきます。
さっそく、たらいに乗って今日のご馳走が運ばれてきました。
基本の炭火焼きコースに、私はもちろんイセエビを追加。たまたま同席したお隣りの方はアワビを注文していたそうで、豪華すぎるラインナップに思わず歓声をあげます。

白い磯着姿の海女さんが、パチパチと火を噴く網の上へ次々と海の幸を並べていきます。焼けるのを待つあいだ、運ばれてきたのは志摩の郷土料理「手こね寿司」。漬けにしたカツオがつややかに光り、食欲をそそります。

ひと口頬ばると、甘辛いタレと酢飯のやさしい酸味が絶妙にほどけ、そこにカツオのうま味がじんわりと広がります。さっぱりした後味で、あとをひくおいしさ。海の香りそのもののアオサ汁との相性も抜群です。

そうこうしているうちに、海産物が焼けてきました。
まずは熱々のサザエから。白い身の弾力と海の香り、肝のほろ苦さが調和し、噛むほどに甘みが際立ちます。オレンジや赤、紫色といったカラフルな貝殻が特徴のヒオウギ貝は初めて食べました。ホタテよりも一回り小さい身はその分、うま味が濃厚に感じられます。
そしていよいよ、鮮やかな朱色に染まったイセエビが登場!
殻を外すと湯気とともに、プリプリの白い身が現れます。豪快にかぶりつくと、鼻から抜ける香りもよく、思わず目を閉じ、じっくりと身の甘みを堪能しました。味噌も濃厚、ツノの付け根にまでしっかりと詰まっています。
遠くに太平洋を眺めながら炭火の前で味わうイセエビは格別。この土地の歴史と文化、誇りに触れる特別な体験でした。