ナカのひとびと

埼玉育ちの私が魚の世界に踏み込んだのは、幼い頃から近所の用水路や荒川でタナゴやナマズを捕まえて育てていた原体験があったからだと思います。水産系の大学に進み、就職活動はちょうどコロナ禍まっただ中。荷受けの仕事に就いた先輩もいて、「面白そう」と感じて入社しました。「昼前に仕事が終わるから時間が取れる」なんて甘い考えもありましたが、実際は眠くてそれどころではなかったです。
入社後は養殖魚、色物、大衆魚と様々な魚種を担当しました。転機は3年目の秋。前任者の退職に伴い、突然「フグをやってみないか」と声がかかりました。フグは「毒魚」で、免許者の元でないと販売できません。担当になったからには「箔」をつけたいと、一発合格を目指してふぐ取扱責任者試験に挑みました。試験は筆記と実技。仕事終わりに除毒所へ通い、約70本のフグをさばく猛特訓を重ねました。18分以内という制限時間内に部位を正確に切り分ける実技試験は、心臓がバクバクでしたが、なんとか高得点で合格。あの時の安堵感は今も忘れられません。
フグは「高級魚」のイメージが強いけれど、実は今の天然ものは他の白身魚より安いことがあります。問題は販売できる相手が免許保持者に限られること。需要の裾野が広がらないもどかしさを感じつつも、いつかスーパーに身欠きのまま並ぶような未来を思い描いています。まだまだ修行中の身ですが、荷主さんにもお客さんにも誠実に向き合い、毎日変わる魚と市況と人の気持ちを読みながら、フグの可能性をもっと広げていきたいと思います。
